ジョルダン標準形について、その2
今回はジョルダン標準形の計算を実際にやってみる、ということで行きますね。まず取り上げる行列はこちら。
赤い色の有名問題集からなので見覚えのある人もいるかも。ちなみに固有値は1の3重解と、何かと便利な仕様となっております。さらに
となるから、固有ベクトルを計算できるし、固有空間はこうなるわけ。
まぁ計算は全部飛ばしてるけどね。でもここまでならだれでも行けるはず。さて、本番はここからだけど、まず固有空間の次元が1ということでジョルダン標準形に含まれるジョルダン細胞の数は1とわかる。さらに固有値が1だから、求めるべきジョルダン標準形はこうなることになるわけ。
与えられた行列の標準形を求めよ、という問題ならこれで終わってもいいんだけど、ここではさらに変換行列Pを求めていく。
まずPを使うとこのような式が成り立つ。
さらにPを列ベクトルで表してこの式を整理するとこうなる。
ここでp1は固有ベクトルになってるから、こう表せることになる。
これと①からp2を求めると任意定数を使ってこうなるだろう。
ここではt=0として改めてp2をこう決める。
これと③を使って同様にp3を求めると、同じく任意定数を使ってこうなるはず。
さらにここでも任意定数をt=0としてp3を決定する。
以上で求めるべき変換行列のすべての列が出そろったので、Pは次のようになる。
以上で与えられた行列のジョルダン標準形に関するすべてが出そろった、と言えるのではないだろうか。
3次の行列の場合、標準形だけなら簡単に求められるので、逆にそこから話を進めていく、という感じか。でも同じ手法は4次以上だと問題が出てくるはず。例えば4次の場合、細胞の数が2とすると、細胞のサイズが1-3となるのか2-2となるのか、今の自分の理解では決定できないので、それは今後の課題となろう。
さて、ここまでやって気になることがあるとしたらやはり任意定数の扱いではなかろうか。自分は気になったけどね。
そこで実際にp2を求める際に任意定数の値をt=1として計算をすると
となる。これと③からp3を求めると
となるから、ここでは任意定数を素直にt=0としておくと
となり、変換行列は次のようになる。
これは先ほど求めた変換行列とは多少形が違ってるけど、計算の結果これも正しい変換行列であることは確認できるであろう。
さらにp1は固有空間の元なら何でもいいはずで、例えば2倍して
こうしてもいいはず。後は最初と同様にp2、p3を求めていけばこのような結果を得る。
当然ここで得られた行列も正しい変換行列になっていることは計算で確かめられる。
さて、今回はこんなところだけど、標準形を求めるのに変換行列が必要なはずなのに、標準形が先に決まって、その後に変換行列が決まる、というのは微妙な感じではあるね。
その辺実際のところどうなのかはわからないけど、例えば行列の次数が上がるとこういうやり方で行くのは難しくなるのかな。あるいは細胞の形を予想して試行錯誤するとか?まぁきちんと理屈をつけることは出来ると思うけど、それは自分としてはまだ先の話、という感じです。
あと最近こういう計算をやってて思ったんだけど、ジョルダン細胞、という訳語がどうしてできたのか?という疑問について思ったこともある。
細胞というと核があってミトコンドリアがあってゴルジ体があって、とか半端な知識しかないんだけど、核が中心で、その周囲を色々なものが覆ってる、というイメージ。
そこで改めてジョルダン細胞を見てみると、固有空間の基底となるベクトルを適当に選べば、そのベクトル一つ一つが細胞の核になる、という感じなのかな、とね。
核一個で構成される細胞もあれば、他のがくっついて大きくなる細胞もある、というか。でもあくまで中心となるは固有空間にあるベクトルである、ということかな。
まぁこの辺の考察の真実性は疑わしいけど、もともと英語で言えばジョルダンブロックで、この訳語として細胞という言葉は不適切に思われる。それでも細胞という訳語を選択し、さらにそれがいまでも使われる背景には、こういった何かがあったと考えるのも不自然ではないと思うけどどうだろう?